私は一人で外食する時は必ずと言っていいほどラーメン屋に特攻する。
ラーメンを愛しすぎたゆえに、前職のグルメ雑誌編集者の癖も助けて、
いろんなラーメン屋にトライし、美味しい店を見つけるのが趣味になってしまったからである。
そうして、県内のほとんどのラーメン屋は行き尽くした。
だが、まだまだ穴場はあるはずだ。
そう思う矢先に、ひとつのラーメン屋を発見した。
いかにも蹴り5発位でつぶれそうな見るも無残なクソぼろいラーメン屋。
これは確実にまずそうである。
行くだけ無駄なオーラがたっぷりこぼれんばかりに溢れている。
だが、『ぼろい店ほど美味い!』と言う、わけわからん暗黙のパターンが、
私の探究心に火をつけた。
そう、ぼろいほど美味いのが黄金のパターンであるならば、
ここは鬼の美味さを誇る最高の店になりうるのではないだろうか?
要は運分天分、試されてやろうではないか!
決心と共に車を降りてガラガラガラ!!と勢いよく扉を開けた。
そこにはあきらかに完全にヤクザな店長がいた。
いらっしゃいも、言わずに店長は言う。
『お客さん、そこはウチの駐車場じゃないで、そこの四つだけがここの駐車場なんや。』
『車、移動シテモラオカ。』
か、帰らせてくれえええ!!!
移動すると同時にそのまま帰らせてくれえええ!!!
そんなことを言えるはずもなく、素直に車を移動してゲッソリしながら席に着いた。
『兄ちゃん。なんにする?』
『あ、チャーシュー大盛りで・・・・』
『あいよ、
チャーシュー大一丁ォォォォ!!!!』
なんで店員一人なのに叫ぶ必要があるのか・・・・
それ以前に明らかになってない接客態度と口調にだんだん腹が立ってきた。
ちょwwwwてか、なんで普通にタバコすってるの?店長www
駄目駄目、俺も大人だ、怒ってはいけない。
まず、それ以前に怒ったら殺される。無理。おk。
静まりかえる店内。
テレビの音よりも時計の音の方が、なぜかカチカチと耳障りに聞こえる。
もう夜の7時だと言うのに客は俺一人。
誰も来る気配はない。
店内は異常に凍りついた空気で満ち溢れていた。
なんでこんな店内寒いんやろ・・・
それもそのはず、店内には一切暖房器具がなかったからだ。
そんな怖さと寒さでブルブル震える私に、
店長は気づいたかのようにタバコをくわえながら、
奥からおいしょっ、とストーブを出してきてくれた。
よしよし、気が利くね!店長!
そして、汚い誇りまみれの灯油入れを素手で持ってストーブに入れた後に、
パンパンと手をたたき、フッと息を吹きかけ、くわえタバコを灰皿にコロンと置いた。
その時、店長は目を見開いた。
職人魂に火がついたのか、一瞬にして空気が変わると同時に、
勢いよく俺のラーメンにもやしをサクサクと手馴れた手つきで入れ始めたのだ。
ちょ!!!オイイイイイイイィィ!!
店長ォォォォ!!!!!!
手を洗えェェェェ!!!
いやいや駄目駄目、俺も大人だ、怒ってはいけない。
まず、それ以前に怒ったら殺される。無理。おk。
もはや私は半泣きだった。
どおりで誰も客が来ないわけだ。
なんで?何で俺この店入ろうとしたの?教えてくれ。
神様、願いがかなうのであれば、ここに入る前の過去に戻って、
入ろうとする俺を気絶するぐらいの渾身の一撃で殴らせてくれ。
そんなことをぐるぐる考えてる間に目の前にドン!とラーメンが置かれた。
コレでまずかったら、ほんとひどい店だ。
店長・・・・あんたの顔・・・・確かに・・・・間違いなくYA☆KU☆ZAだったぜ・・・・
って、
うめええええええええええええァァァァコレ!!!
あんたぁ職人だぁ!!!
知ってたよ!!あんたはラーメンしか見えてないんだ!!!
接客は二の次!!黙ってラーメン食えや!みたいな男気だったんだろ?!!!
知ってたよ!!!はじめからわかってたよ!!!俺はあんたのことを!!
店長!!またいきます!!^^